【24】

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 “砂時計(アワーグラス)”で交わされる他愛のない会話の中で『運命の相手の存在を信じるか?』という話題に触れ、俺は迷うことなく「信じる」と言い切ったのだ。  今までの俺ならば、そんなものは迷信でしかないとか、たとえ“運命”で出会ったとしても、別れてしまえばそれで終わりだ……と斜に構えていたフシがあった。  しかし、その時は迷うことなく声を上げたことを覚えている。  もしかしたら俺は知らないうちに”運命の人“と出会っていたのかもしれない。たとえその人と恋人になれなかったとしても、相手にとってなくてはならない存在だったのでなかったかと思う時がある。それは、電車の中で誰かが読んでいた本の見出しだったかもしれないし、朝方に見た夢かもしれない。  はっきりとした記憶はないが、信じていることには違いない。  上郷と仲谷が交わす会話の端々にも、互いを想う気持ちが表れている。それに左手の薬指に嵌められた指輪が、二人がただの恋人ではないことを示している。  決して口には出さないが、彼らは共に生きる誓いを立てたのだろう。  いつか自分にも生涯をかけて愛せる相手が出来れば……と願うばかりだ。  愛すだけじゃない。こんな俺でも愛してくれる男が現れることを……。欲張りな願いだとは分かっているが、願わずにはいられない。  ひと際冷たい風がビルの間を吹き抜けて、ぶるりと身を震わす。  歩道に並んだ並木も色を変え、落ちた葉が足元に纏わりついてくる。  赤信号で止まった交差点で、角に設置されたガードレールに視線を向ける。  何があるわけでもないが、そこに誰かがいたような気がして振り返ったのだ。  歩行者用の押しボタンが赤く点灯しているだけの殺風景な光景に、気のせいかと肩を落としてため息を吐いた。  車の通りも少なくなった道路をぼんやりと見つめながら、コートの襟元を立てた時、背後から歩いてきた人物に腕が掠った。 「あ、すみませんっ」  そもそも人の気配にさえも気付かなった上に、自分の腕を当ててしまったことで焦りが増す。  慌てて振り返ってみると、スーツ姿の男性が立っていた。
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