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また、雪が鼻先に乗った。
今日は彼が玉翠国の王になる日で、燐のような微かな光を放つ雪が舞っている中、右に泣き黒子があるその艶麗な男は白い息を吐き、雅な声で風に喚びかける。
すると風が渦のように巻き、おいでおいでと手招きするように彼を吸い込んだ。
「――……夢、ですか」
これは随分と前の夢だ。もはや彼自身、いつのことだったか覚えていない。
けれど、王になった当初は人間が嫌いだったなと肩を竦め、長く色気のある睫毛を揺らして、男は自嘲的な笑みを浮かべる。
「長い時を生きていると、考えは変わるものですね。あの時の憂いなんて嘘のように、私はひとを愛していますから……そう、ひとしか愛せないくらいに」
涼しげだが愛くるしい大きな瞳を輝かせ、声高らかに宣言してきた小さな少女のことを思いだし、彼はころころと喉を震わせて笑った。
長い時を生きている自分からすればまだまだ赤ん坊のような子なのに、面白いことを言うもんだと口許に笑みが刻まれる。
「さすが、あなたの子供ですね。……つい、流すのを忘れて相手をしてしまいました」
あの娘はまた、いつものように来るのだろうか。
いち、にい、さん。指で数え、彼はあっと目を瞠る。
「あらあら、予定では今日ですね。……お菓子を用意しないと、むくれてしまいます」
光の加減によってきらきらと違う輝きを放つ美しい扇をひらめかせ、彼は近くに控えている者に声をかけた。
「驪明さまのために、お茶と、お茶請けをお願いいたします。……さあ、騒がしくなりますね」
困った口調とは裏腹な楽しげな表情に、近くにいた者たちがうっとりとしたため息を溢す。
とても、美しかったのだ。それに、この国の者たちは、彼を狂ったように愛している。
彼は皆の恍惚とした視線を背に感じ、ぞっとするような冷たい光を瞳に宿した。
そんな彼の気持ちを、この国の者たちは誰一人として知らない。
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