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◇◇◇◇◇
『K』で内山さんと話した翌週から、早速私は三浦さんのモデルをすることになった。
内山さんから三浦さんの元を訪れるよう言われたのは、日曜日のまだ早い時間だった。
数えられる程しかいない乗客と共に、路面電車に揺られ街中を移動する。
絵のモデルなんて、私には一生縁のないものだと思っていた。初めてのことに緊張は高まるばかり。
乗降口近くの席に座った私は、少しでも心を落ち着けようと、窓の外を流れる景色をゆっくりと眺めていた。
内山さんは、依頼主である千石さんのことを「まだ無名だった三浦を見出してくれた恩人だ」と言っていた。千石さんが、三浦さんの描く人物画をどれほど高く評価をしているのかも嫌と言うほど聞かされている。
絵のことなんて全くわからない私に、そもそもモデルが務まるのかどうかもわからない。三浦さんに全て任せて、彼の言うとおりにしていれば問題ないと言った夏希さんの言葉を信じるしかない。
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