そのままの君に

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 まだ人もまばらな朝のエントランスホール。受付不在のカウンターには、赤い葉をした鉢植えのポインセチアが飾られていた。  鮮やかな赤と緑のコントラストが、埋もれかけた記憶を呼び覚ます。    去年の今頃は、その日の夜に振られてしまうなんて知らずに、達哉との約束に浮かれていた。  そしてその夜、三浦さんとの全てが始まったのだ。  そう思ったところで、自分でブレーキをかけた。まだ何かにつけ、彼のことを考えてしまう自分がいる。 「おはようございます」 「おはよう高田くん。早いのね」  私を見かけ、エントランスから走って来たのだろう、高田くんは軽く息を弾ませていた。 「動機が不純ですみません。今日はさすがに残業したくなくて」 「クリスマスイブだもんね。頑張って定時までに仕事片づけて」  照れ笑いを零す高田くんの肩を叩きながら、ちょうど来たエレベーターに乗り込んだ。
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