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「あん時さ、なんであんな喧嘩したんだ? 俺、それ知らねぇな、考えてみると」
お前のことだ そうは言えない。
『いつまで息子を引きずり回すんだ!?』
『あんたには関係ない』
『そうは行くか! 俺にとっちゃ息子も同然だ!』
『あんたの息子じゃない。甘やかすからあいつは腑抜けになるんだ』
『ジャックのどこが腑抜けだ! いったいどこに目がついてるんだ!』
ウィルにはウィルなりの考えも親としての在り方もあったのかもしれんが、それはジャックを正しく育てなかった。
『出て行け!』
ライフルを突きつけた俺に背を向けてそのまま出て行ったウィル。分かり合う努力をもっとすべきだったのか。それは俺にも分からん。出来たとも思えん。
「あん時俺がビール買って帰って来たら、エドが親父に銃を突きつけてたよな。正直驚いたよ。昔っから仲良さそうには見えなかったけど、そこまでの喧嘩するとは思ってなかったから」
まだ工具はガチャガチャ鳴っている。
「意見の相違ってやつさ。ウィルはアクが強いからな、しなくてもいい喧嘩になっちまうのさ」
「そうだな、あっちでもこっちでも喧嘩してるからな、親父は」
「ウィルに何かあったのか?」
工具の音が止まった。ちょっとの間しんとして、また工具の音が始まった。
「別にたいしたことじゃないよ」
こいつが親父と喧嘩するわけがない。そういう意味では普通に育ったのはウェスリーの方だ。もっと器用に生きろよ。そう言ってやりたいが、今となっちゃ遅すぎる。
ガラガラと車の下から出てきた。
「な、エド! 俺、整備工になったらどうだろな? やってけると思うか?」
「なるか? 給料要らんならここで雇ってやってもいいぞ。飯くらいなら食わしてやる」
「なんだよ、ただ働きか?」
「俺が金持ちに見えるか?」
「間違っても見えない」
そう言って笑うヤツの片方の目からぽとんと雫が垂れた。
「おい、目を洗って来い。鉄粉が入ったならすぐ洗わんと目が潰れるぞ」
「……ああ、そうだな。サンキュ、エド。顔、洗ってくる」
お前、そうやって一生生きるのか?
――家族 家族 家族
俺が家庭というもんを失くしてからだいぶ経つ。だから家庭を持っていたという実感すら無い。
家族にしがみついて生きても自分を殺すだけだぞ。今にそれはお前を潰しちまうぞ。どうやったら俺はジャックを助けられるんだ?
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