猫の気持ち

30/31
901人が本棚に入れています
本棚に追加
/31ページ
 妙な事になってしまったもんだ。  あの閉じ込められた日から嵐に巻き込まれたみたいにいろいろ大変で、今は大きな寝心地のいいベッドにすっぽりと埋まっている。誰とも未だわかりきってもいない男の家のベッドだ。だけど意外に落ち着くもんだな。まだまだ就職活動とかで大変だろうけど。心機一転なんてちょっとだけ爽快な気もする。ポジティブなやつがすぐ近くにいるからそう思えるのかもしれない。 「はー。あっちー」  のぞみが風呂から出てきたようだ。 「あれ? あれれ? のぶちゃん? もう寝ちゃったのかなぁ~?」  かなぁ~? のへんから声が小さくなっていく。リビングとの引き戸が静かに開く音。リビングの電気も消えた。俺はすっぽり布団の中におさまったまま声をかけた。 「おかえり」 「あ、起こしちゃった? ごめんね?」  薄暗いオレンジでぼんやりしか見えない。のぞみはTシャツと短パンのような格好でベッドへ潜り込んできた。 「ふふふ」  なぜか楽しそうに笑いながら、体重を掛けないように俺に覆いかぶさる。 「おい」 「んー?」  近づいてくる顔を避けながら隣が空いてると目で示した。 「あっちあんな広いだろ」 「のぶちゃん可愛いね」  チュッチュッと降ってくるキス。三回目のチュッは口に落ちてきた。 「また。口にするなって言った」 「のぶちゃんの唇、とても柔らかい。ぷにぷにしてる」  話してる口にまた口を押し付けてる。するなと言ってるのに。俺はのぞみの肩とオデコに手を当てて口から押し剥がした。
/31ページ

最初のコメントを投稿しよう!