増長ストロングスタイル

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 私は小雪のこの表情が、キレる前の黄色信号だと長年の経験で知っている。そして、これ以上怒らすと、また先月のように『離婚』をするしないの喧嘩に発展する恐れがあることも。    「しょうがないな。ケン、カナこっちにおいで。何かやって遊ぼう」    喧嘩の際に、私はつい興奮して「離婚しても構わない」なんて粋がってはしまうが、本当の事を話すと、それは一番の恐怖だ。その証拠に、先に謝るのは、たいがい私の方である。    「もう、風呂行ってくればいいじゃない。シックスパックの格闘家とは全然違うお腹のたるみを確認してくるといいわ。試合なんて録画して、そこの部分だけを後で見ればいいんだから」  「試合だけ見たいわけじゃない。君には解らないと思うけど、ここには人間同士のドラマがあるんだよ。それに近頃は、お腹も引き締まってきてるんだ」  小雪は片方の眉毛をつり上げて「へえ?」と馬鹿にした。  「だいたい格闘技なんて野蛮なだけじゃない。音楽番組だったら聴きながら料理作れるの。それをこっちは我慢してるんだから」  小雪は正月のおせち料理を作ることで、見たい番組を見れない苛立ちを私にぶつけている。  「まあそう言うなよ。子供たちの面倒は見るからさ。おいっ! ケン、カナぁ」    ケンとカナは、キッチンから一度消えたかと思うと、どこからかトランプを持ってきた。    「パパ、大富豪やろうよ」      
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