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この世にお年玉なんて、存在しない。
いや、相手から貰った瞬間だけは確かに存在していた。
しかし、
「これ、お母さんが預かっておくね」
母が笑顔で魔法の呪文のように唱えれば、まるで最初から何もなかったようにお年玉は消えるのだ。物心がついてから変わることなく、貰い終わった18歳までずっと。
子供の頃は何とも思わなかったが、中学に入りさすがに俺もその理不尽さに思春期も重なって大喧嘩をした。それも、俺が一方的に母親を責めるだけの。
母は酷く悲しそうに俺を見つめるだけで、何も言い返さなかった。悪いのはお年玉を渡してくれない母なのに、どうしてか自分が一番酷い事をしている気がしてならなかった。
ただ、一言。
ごめんね。
母の口からこぼれでたその言葉に、胸が締め付けられた。
これ以上、母の顔を見たくない。
たまらず俺は、雪が降る夜に家を飛び出していた。
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