柴谷君の、妄想ジングルベル

2/2
7人が本棚に入れています
本棚に追加
/2ページ
「ジングルベ~ル♪ジングルベ~ル♪すっずぅが~鳴るぅ~♪」 ご機嫌な鼻歌まじりで色紙を細長く切っているのは、 悪友門田の妹、ふく子だ。 俺と門田は、輪っかにした色紙を糊付けする係を仰せつかっている。 「潤くん、手が止まってるよ! サボっちゃダメ!!」 「お前のクラスの飾り付けだろ! 何で先輩の俺が……」 「ボヤくな柴谷、この輪っかを杉ちゃんが首にかけた姿を想像して、今は耐え忍ぶのだ!」 そう、我が高男子憧れのマドンナ、音楽の杉先生は、忌々しくもこのふく子の担任。 ふく子から、25日の終業式後にクラスで行うクリスマスパーティーの準備を手伝う代わりに、 杉先生の首に余興でかけた輪っかを、あとで横流ししてやる、と持ちかけられ、 一も二もなく引き受けたんだった。 杉先生のあの豊かな胸元に、俺が糊付けしたこの輪っかが……。 胸とともに揺れて……揺れて……。 ああ、そのまま糊付けされてしまいたい……。 「ちょっと!ヨダレ垂らさないでよ輪っかに!!」 「あ、すまん」 俺は口元を拭い、イソイソと糊付け作業にいそしんだ。 待望の終業式当日、ふく子はパーティーのあとそのままカラオケに繰り出し、遅くなると家に連絡があったらしい。 折しも雪が降り始め、ロマンチックなホワイトクリスマスの夜。なのに……寂しいよ、杉先生……。 俺は翌朝さっそく、朝陽に溶けたべちょべちょの雪道をものともせず、門田家に押し掛けた。 寝ぼけ眼のふく子は、爛々と目を輝かせた俺と門田を前に、悪びれもせずのたまった。 「あ、ごめーん、学校に置いてきちゃった」 「どこ!? お前のクラス!?」 「……行ったらすぐわかるよ、目立つように置いてきたから♥」 ……含みのある笑顔に若干の不安を感じつつも、 俺と門田はルンルンと学校を目指す。 「ジングルベ~ル♪ジングルベ~ル♪すっずぅが~鳴るぅ~♪」 「輪っかはどれも、一度は杉ちゃんが首にかけたってよ!! お前どーする!?」 「ジングルベ~ル♪どーしよっかな~♥」 校門をくぐった途端、俺達は息を飲んだ。 クリスマスツリーがそこにあった。 色とりどりの輪っかが、ふく子のクラス1年5組の窓の外に植わったイブキの樹に、これでもかと巻き付けられていた。 雪が滲み、トロトロに溶けたそれは、 朝陽を受けて白い雪に映え、緑に映えて、 ただただキラキラと……美しかった……。 Fin.
/2ページ

最初のコメントを投稿しよう!