袖振り新造

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いつの間にか目の前までやって来た國さんは、数年前と変わらない薄紅の羽織を羽織っていた。 「國さん、年を取ったから歌舞伎座の役者やめるっていってから一体どこに消えてたんです!」 懐かしさと同時に、長い間わっちと姐さんに会いに来なかったことに対する怒りも込み上げてきた。 「うーん、旅かな。あと、細々とお金を集めていた。」 「姐さん、お武家の家に嫁ぐことになったんでありんよ!」 「うん、それはめでたい。彼女にとって初恋の人だから、嫁になれて彼女も嬉しいだろうね。」 「……え?」 「大変だったんだよ、お金のこともあるし、お爺さん大名の後妻にという話があるからっていろいろ根を回すの。」 「え?」 國さんは、一体何者なのだろう? そして、結局は何をしていた? 「…って俺のそんな苦労話なんてどうでもいい。雪乃、あの巾着袋持ってる?」 巾着袋…色々と心細いことがあるときはいつも手元に持っていた。もちろん、今も持っている。 袂から取り出すと、國さんの前に差し出す。 「…中身出していいよ。」 國さんは懐かしそうな顔をすると、優しい声でそう呟いた。 わっちが袋のなかをふると掌に、コロンと金色の玉が転がった。 「何でありんしょう?この玉は?」 「純金の玉。」 「それは見ればわかりんすが…、國さんは意味があると言っていたでありんしょ。」 「小さい頃から賢い君ならわかるはず。しいて言うなら、俺はその綺麗な玉かな。」 國さんは、玉に指をさしながらそう答える。 「袋から玉が落ちた。……玉がわっちの掌に落ちた……玉は、國さん……。」 1拍のち、二人は同時に顔を赤らめる。 「…だから、まあ、そういうことだ。」 「…あり得んせん!國さんは何を考えてるんですか!」 「…な、どういうことだ?俺の考えてることはただひとつ……!」 「卑猥でありんす!玉って……玉って!!」 「それは賢すぎる!話が飛躍しすぎだ!!」 意味は分かるが、素直になれない。 二人のこの様子を、馴染みの客たちは『見たことがあるような……』と思ったに違いない。 やり取りを見ていた月乃も「そっくり」と笑った。 年端もいかない少女の将来を見据え玉を渡した男と、訳もわからないまま玉をもらった新造。
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