ある看板持ちの一日

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――プロローグ―― 「・・・・・退屈すぎんだろ、この仕事」  男はわずか一時間ちょっとで、すでに十回目となる愚痴を口にした。    その男は、看板を持っていた。    看板には「満ち足りた快適なくつろぎ空間を提供するモデルルーム、絶賛公開中!この先1キロ→」と記されている。  看板持ち、それがこの男、大庭ケンジにあたえられたポジションだ。  どういう仕事かと問われれば、まあこの格好から想像するであろうことと大差はないだろう。    朝の仕事開始から看板を持って立つ。  座ることは許されずひたすら立つ。  立っているポジションは上からの指示であり、勝手に変更してはいけないので、ひたすら同じ位置に仁王立ちである。  携帯をいじるのは禁止、読書も、音楽を聴くのも禁止。    許されることは固定化された町の風景を眺めるだけ。  要するにただひたすらデクノボーのように突っ立っているだけの簡単なお仕事なのだ。
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