ペットと公園デビュー

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こんな広い部屋で一人だと普段と違いすぎて眠れそうもない。 おまけに浮かんでくるのは、寝てる間にまたもや襲われ、ここにペットがいないと分かり私だけ殺られる場面だ。 妄想が膨らみ寝れないループだったが、気づくと周りは薄っすらと明るくなっていて、いつの間にか眠っていたようだ。 起きてしまった以上ここで二度寝をする勇気もないので、支度に入りリュックの中のインスタントのコーヒーとあんぱんで朝食を済ませた。 広すぎる空間は心細さを煽ってくるが、部屋の外に気配を感じドアに近づくと、エレベーターのポーンという音がしたので誰かがいた事は間違いない。 こっそりとドアのすき間から通路を見ると、イナリが眠そうな顔で壁にもたれていたので、どうやら凱に連れてこられたようだ。 「イナリィ――!会いたかったよ、おはよう!」 すぐに抱き上げて部屋に入ろうとすると、またエレベーターが止まるので慌てて中に入り、覗き窓から様子を伺った。 ドアが開くと塵里と犬の姿になったキセロが現れたのでホッと溜め息をつき、イザリ屋はキッチリ仕事を終わらせたと思えた。 「おはようございます、チェックアウトして少し散歩しませんか?」 覗き窓から見ているとバレてるようで、チャイムも鳴らさず話しかけられたのが微妙に怖い。 「おはようございます、すぐ参ります」 支度は済んでいるのでリュックを背負い部屋を出たが、イナリはまだお眠のようなので、腕の中で寝かせておいた。 ホテルを出て昨日車がぶつかった場所を通っても、痕跡もなく何事もなかったように処理されている。 「最後に公園に寄って帰りませんか?」 「はい!今日はぜんざい配ってますかね」 違う意味でワクワクしていたが、キセロは白々しく尻尾を振りこちらのご機嫌を伺うので、家に帰るのが近いと分かっているらしい。 早朝の公園も色んな種類のペット達が戯れていたが、主婦の雑談チームが誰一人としていない事に気づいた。 昨日宴がお開きの時に啄に録音した物を渡したが、もう意味はなかったのかもしれない。 今日はぜんざいの鍋は見えないが、代わりにテーブルの前で何かする姿を見つけ思わず近づく。 「あっ、おはぎに変わってる!並ぼう」 眠そうだったイナリもパチリと目が覚め、速やかに列の最後に並ぶ私達を見て、塵里は苦笑いをしていた。
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