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不意に、容赦無く降り注ぐ冷たい雨が途切れる。同時に
「小さいね。生まれたばかりかな」
と柔らかい中にもどこか凛とした声が背後から響いた。驚いて振り返ると、そこには
一度見たら忘れられない印象的な瞳を持つ彼が立っていた。上品な二重瞼に鳶色の長い
睫毛に縁どられた美しいアーモンド型の瞳を持つ。思慮深く怜悧な光を宿す、澄んだ
明るい鳶色だ。面長の顔の輪郭、キリリと整えられた鳶色の眉毛。上品に高く通った
鼻筋。男らしく引き締まった形の良い唇。細身で高身長、長い手足がやや日焼けした
肌と相まって黒の学生服がよく似合っている。鳶色の髪はサラサラとしたショート
カットに整えられている。
校内で彼を知らない者は居ないであろう。それもその筈、彼は生徒会長であると同時
に走り幅跳びの期待の星でもあった。頭も良いという話だ。ほとんどの女子は、彼を見て
ときめくだろう。聖もその例に漏れず、密かに憧れていた。何故なら何となく、赤毛の
アンのギルバートを思わせたのだ。
そんな憧れの君が至近距離で、しかも自らの傘を差し掛けてくれるのだから、ポーッ
としてしまうのは無理のないことである。けれどもそれはほんの一瞬で、瞬く間に我に
返った。
「すみません、傘有難うございます。そうですね、まだ目が開いたばかりかもしれ
ません」
ドキドキと鼓動が高鳴りながらも、努めて落ち着いて、冷静に応じた。彼には
幼馴染のとてつもない美人の彼女がいる、という噂だった。人のモノには興味が
無い。手の届かない人なのだととっくに諦めていた。それなのに、鼓動が高鳴って
しまった自分に戸惑いつつ……。
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