序章~全てものはじまり~

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 ソレの先祖は遥か昔……。未だ人類が誕生する前に、海の泡から突如誕生したらしい。  それから長い年月を経て一匹増え、二匹増え。無数に増えて行く。そしてまた突然変異で違う種類のソレが生まれ、一口にクラゲと言っても沢山の種類が出来ていった。  久方の光麗らかな春のある日…。天橋立近くの海で、偶然一際激しい白波が立った。それは無数の泡を作り、波間に溶けて行く。たゆたう白き泡。波に揺られてゆくらーゆくら……。ソレは徐々に丸く膨らみ、触手をかたどっていく。  ソレは限りなく透明で、丸い頭には黒の縦縞が描かれ、中の内臓は(くれない)や黄、橙色(だいだいいろ)など色鮮やかに美しい。  その触手たるや先端が艶やかな赤紫色で、その下は女郎花色の玉となっている。そして透明になっていて頭に向かう。触手はところどころ小さな丸玉がついており、得も言われぬほど美しい。  ソレは後世に『花笠海月(はながさくらげ)』と言う名で呼ばれる原始の誕生である。  ソレは背伸びをするように触手を伸ばした。どうやら触手は縮んだり伸びたり自在に出来るらしい。  その様子を、空に浮かびながら見つめる存在があった。その存在は黒の単衣(ひとえ)を頭巾のように頭から被り、銀色の錫杖を手にしている。顔はハッキリとは見えないが、青白く透き通った肌、恐ろしい程整った顔立ちをしているのが垣間見える。髪はどうやら銀色のようだ。  この男は『夜』と『海』を司る神、「月読命(つくよみのみこと)」である。たまたま海の様子を見に、空を舞っていたのだ。  そこで、たまたま目にした花笠水母が誕生する瞬間を興味深く見つめていたのである。
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