序章

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 昔々あるところに平凡なひとりの男がいました。特別な生まれでもなく、高校、大学と流されるがままに人生を歩んでいました。  そんな彼は大人になって仕事に一生懸命に取り組み友人の勧めで起業をしました。毎日を忙しく過ごすこと数年、気が付けば会社は大きくなり大会社の社長となっていました。そんな彼が起業をした頃から秘書を勤めていた女性と苦楽を共にする中でお互い惹かれ合い周囲に祝福される形で結婚しました。そんな二人は子どもが男の子なら王子、女の子なら姫と名付けようと早くから決めていました。そんな話を聞かされた娘は女に産まれたことを心の底から感謝し喜びました。娘曰く…… 「王子って名前ダサい」 だそうです。  自分の道は自分で決めるという両親の教育方針により娘は伸び伸びと育てられました。勉強を強要されることも無理矢理習い事をさせられることもなく惜しみない愛情を注がれながら幸せに成長しました。いつの頃からか娘は自らの名前を持つ物語の世界のお姫様に憧れを抱くようになり真似事をするようになりました。母から借りたドレスを着飾り、同じくアクセサリーを身に付け、メイクをしてもらいます。しかし、なにかが違うと、こんな上部だけ作り上げても意味は無いと幼いながら理解しました。そんな達観した考えで落ち込む娘に対して母は言いました。 「王子様が必要なのよ。お姫様は王子様の愛を貰って完成するの」  その言葉に衝撃を受け娘は王子様を捜し始めました。しかし、娘にとって王子様とは至極曖昧で好きだと言ってくれる人がそれなのか、優しくしてくれる人がそれなのか、気にかけてくれる人がそれなのかわかりませんでした。中には家柄を知って態度を豹変させる人がいるくらいで娘は王子様の存在を疑い始めました。  それから数年が経ったある日、娘の通う学園が文化祭の催しとしてスポーツ大会を行いました。友人たちと観戦に行った時運命的な出会いが待ち受けていました。その存在を認識した瞬間胸がものすごい勢いで鼓動し視線は釘付けになりました。一目見ただけで長年捜していた王子様はあの人だと確信したのです。このチャンスはきっと最初で最後のチャンスだと思った娘は王子様を取り巻く魅力的な女性たちを相手にしながら王子様に猛烈なアピールを繰り返しました。全ては幼い頃の夢を実現させるために……
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