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立ち去ろうと言う気配の彼女に、俺は声を張り上げていた。
「助けてくれてありがとう!一晩中付き合ってくれて、ありがとう!」
俺の素直な言葉に、彼女の頬に初めて朱が昇った。
「あの、名前……!」
「名はない。早く行け」
彼女はまっすぐゲレンデを指差した。
俺は諦めた、彼女はもう帰りたがってる……何処へ?
ボードを持ち直して歩き出した。振り向くな、脇にそれるな、それを心の中で繰り返しながら、森林を抜けた。
下から人々が上がってくるのが見えた、先頭はスノーモビルが二台、救助隊だった。
俺がそれを見つけると、頭上で「ピィー!」と甲高い声がした、見上げると鳥たちが四散する所だった。
名前を確認され、俺はスノーモビルの後部座席に乗せられた。
その時初めて振り返った、女性は勿論、俺が歩いて来たはずの雪にすら、その痕跡が無かった、雪は深く見えた。
救助隊に聞いた、なんでもこの山では遭難者で出ると、その上空を何十羽もの様々な種類の鳥が渦を巻いて飛んで知らせてくれるのだそうだ。
「まるで海で言う鳥山だ」
あれは魚の居場所を知らせるが、この一帯の山では遭難者の居場所を知らせるのだ。
お陰で死に至る遭難はないと言う。
*
『──関東でも随分降ったんですよねー。横浜では古いアパートが倒壊して──』
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