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ぼんやり時計を眺め、稲葉は言った。むらっときたけれど、さすがに体力はない。キスだけに留め、「起き上がれますか?」と尋ねた。稲葉は自力で起き上がろうとしたけれど、すぐに布団に突っ伏した。
「無理みたいです」
情けない声に、陽平は笑った。
「責任とって、お世話しますよ」
「責任なんて……」
動けなくなった責任イコール昨夜の陽平の振る舞いを思い出したのか、稲葉は赤くなった。
「まずは……そうだな。体をきれいにして、飯食って、コーヒーを飲みましょうか」
「いいですね。でも、その前に」
もう一度キスしてほしいと小さな声でねだられた。陽平は微笑し、稲葉のリクエストに応える。好きな人と一緒に迎えた寝起きの瞬間は、とてつもなく幸福な時間だった。
おわり
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