いつもの場所で、コーヒーを

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いつもの場所で、コーヒーを

 そろそろ、彼がやってくるころだ。  喫茶店アガサの店長である高坂陽平は、店内の壁に掲げられた時計をちらりと見た。時刻は夜の八時になろうとしている。  カウンター内にいた陽平は、コーヒーカップを磨きながら、軽く息をついた。  すらりとした長身に、適度に引き締まった体。一重の目元はきついものの、さっぱりと短くした黒髪と愛想のよい笑みに、さわやかさが漂う。白のシャツに黒いエプロンが、いかにも喫茶店の店長という印象を与える。  父親の店を継いで二年。都心から地下鉄で三駅ほど離れた街にあり、それなりに繁盛していた。店の前には地下鉄の出入り口があり、朝は通勤途中の会社員が目覚めのコーヒーを求め、昼になればランチ目当てに常連客で賑わい、夜は夜でOLたちやカップルがちらほらと来店する。  今晩も、十五席あるうちの三分の一がうまっている。立地条件と時間帯を考えれば、まずまずといったところだろう。     
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