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――同日、午後3時30分。
暖かな日差しにあふれる午後の公園は例の事件のこともあってかあまり人がおらず、閑散とした空気を醸し出す。
ただ、遊歩道に沿って点々と並ぶ桜の木は辺りを薄紅色に染めていた。
ふっと視界の端によぎったのは、一頭の黒い揚羽蝶。
暖かな日の光を受けて、その翅に纏った鱗粉を煌めかせる。その姿は実に艶やかで、あれは本物の蝶なのだろうかと錯覚してしまうほどだ。
頬を撫でる春風が瞬矢の着ていた濃紺のジャケットに温もりを感じさせる中、舞い散る桜の花びらを眺めながら前を歩く茜に訊ねる。
「どうして急にあんなこと言い出したんだ?」
すると彼女は枝先についた花を見つめ、少なからずも考える素振りを窺わせ開口した。
「んー、もし本当に双子なら、記憶の共感や共有が出来るんじゃないかって」
「記憶の共感?」
茜の言葉に聞き返した後、続けて「まさか」と否定的な返答を返す。
そういえば、以前何かで聞いたことがある。双子は離れた場所でも互いを共感できると。
だが彼女の言った提案はあまりにも突飛で、また、科学的にも双子の共感について明確化されていないのだ。
「つまり、俺はその実験台って訳か」
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