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「ですからッ!」
抑えきれず声量が大きくなる。
ぴくりと敏感に、惟為の眉が上がった。
実の息子相手であってすら、蔑むような冷たい眼差しには一片の躊躇もない。
背筋の凍る思いがして、怒りに沸き立っていた頭がいっきに冷えた。
鎖骨と鎖骨の間の窪みが細かく痙攣するのを自覚する。
実の父親を相手に怯んでいながら、頭の中でその実の父親の教えが幾重にも乱反射する。
──「弁論の場において黙ることは許さぬ」──
──「口を閉ざすということは、相手に付け入る隙を与えることに他ならない」──
──「すなわち、敗北だ」──
「………、」惟為の侮蔑的な眼差しが、徐々に失望に支配されていく。
ますます舌が上顎に貼りついてきて、国実はその息苦しさから無意識に顎を上げて喘いだ。
惟為は無様な息子の様子にうんざりして顔を背ける。
「大した用件もなく、この父の刻を奪うな」
犬でも追い払うように、右手で雑に退室を命じられた。
膝が萎えた。
何かに縋らなければ立っていることすらままならず、しかし手近には国実の体重を支えうるものがなく、数歩よろめいた挙句、みっともない音を立ててその場に崩れ落ちた。
派手な音に驚いた惟為が振り返る。
はっと我に返ったように目を見開いた惟為が、慌てて立ち上がって駆け寄ってきた。
「大事ないか。すまぬ、ぞんざいにしようと思ったのではない。どこかぶつけなかったか?」
優しい手つきで国実の肩や頬に触れて、怪我はないかと全身に目を配る姿は、幼い頃からよく知る温かな父親そのものだ。
だが、──国実は既に、知っている。
血を分けた家族に優しい多部惟為の裏には、己以外の者に情け容赦のない冷酷な多部惟為がいることを。
「父上は……、」
茫然と父親を見上げたまま、国実は震える唇で言葉を紡いだ。
惟為が真っすぐに国実の眼を見つめる。
「父上は、何を知っておいでです?」
「何を、とは?」
「あなたは一体、何をどこまでご存知なのです。どこまでが父上のお手引きで、どこからが父上の企図なのです」
惟為は意味が分からない様子で眉を寄せた。
とぼけているようには見えず、それがさらに国実の不安を煽り立てた。
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