8.彼女の闇

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「まさか……」 「朱音をカウンセリングに連れて行ったことがあります。これまで、母親を守ったという自尊心が彼女を支えてきたが、間違いだったとわかり、彼女は後悔や罪悪感から『自分は汚い』『自分には幸せになる資格がない』と思い込んだようです」 「ちょ――ちょっと待ってください」  俺は朱音が変わってしまったのは、仁也のせいだと思っていた。仁也の嫉妬や独占欲が彼女の好みを変え、笑顔を奪ったと考えていた。実際、朱音も仁也の束縛から逃げたのだと言った。 「朱音はあなたの束縛から逃げたんでしょう?」 「朱音がそう思っていたのならば、俺のしたことは間違いじゃなかったな……」と、仁也はフッと口角を上げた。 「え?」 「俺は朱音が汚れてなどいないとわからせたかった。だから、朱音の言動に理由をつけたんです。朱音が地味な色の服ばかり着るのも、笑わないのも、飲み会に参加しないのも、俺がそうするように言ったから。決して朱音の意思ではない。そう信じさせることで、朱音の精神状態は安定しました。けれど、一つだけどうすることも出来ないことがあった」 「朱音はあなたがデキないのは、自分が汚れているからだと思っていた……」 「そう。カウンセラーにも言われました。俺が朱音を抱くことが出来れば、朱音の考えは払拭されるだろうって。だけど、俺自身がカウンセリングを受けても薬を飲んでも、どうしてもデキなかった。朱音と暮らし始めて一年ほどした頃には、俺も疲れ切っていた。だから――」  仁也は俺から目を逸らし、窓の外を見た。
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