足跡

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 広い倉庫に取り付けられた窓から、光が差し込む。その筋の中にはほこりが漂っている。  カビの匂いが混じり、幾分湿った空気の中、いくつもの下駄が並んでいる棚に向かって進む。  棚に置かれた下駄は、下から上に、少しずつ大きくなっていくように並べられている。 「すごい数の下駄だなァ。二十個くらいはあるんじゃないか?」  取材の前に、僕の小さいころを知りたいと言って着いてきた男は、そんな感想を漏らす。 「正確には二十四個。」 「それはまた…。」  僕の頭より高いところから降って来た、男の歯切れの悪い言葉を無視し、一番小さな下駄を手に取る。 「これが、一番最初に買ったやつ。」  作りは一般的な下駄と同様だが、底面の歯が長くなっている。この高下駄は、僕の人生を決めたものと言って過言ではない。 祖父母が大切に保管してくれいているおかげか、色落ちはしているものの、あまり劣化はしていないようだ。 本当は一枚歯のものが欲しかった。だが、危ないからと二枚歯の高下駄しか買わせてもらえず、大泣きをしたことまで覚えている。  その年の正月は、羽子板や福笑いなどで盛り上がるいとこたちを尻目に、下駄で歩く練習に費やしたのだった。 それ以降、お年玉をもらう度に高下駄を買い替えた。 小学校の高学年ころは、その年に買った下駄が、半年もすれば小さくなって履けなくなることもあった。 それでもどうにか履き続けようとしたが、無理がたたって鼻緒で足の指の股の皮が擦りむけ、言葉どおり痛い想いをしたものだ。 それからは素直に、次のお正月を待つようになったが、一日千秋の想いでどうにかなりそうだった。 小さくなった高下駄は、全て祖父母の家の倉庫に飾られており、両親の休みが来ると、決まって見に行きたいと駄々をこねた。 「こんだけ大事にしてんだから、お前の熱意もホンモノだったんだろうなァ」 「うん。多分、父さんと母さん、じいちゃんもばあちゃんも、分かってる。だから大事に取っておいてくれたんだと思う。」  男の感想に、今度は返答をする。 「そんなに天狗が好きか。」 「もちろん。」
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