会長様は多忙につき。

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「オレはお前にとって不要という訳だな」  案の定というか、相変わらず飄々とした口調で言われてしまう。だが、そんな事はもう既に甲斐にも分かりきっていた事だった。 「……そう言われるとは思ってたよ…。けど、俺は隼人の中からお前を消したい訳じゃない。お前を嫌いな訳でもない。まだ俺にもどう接したらいいのか分からない部分もあるけれど、それでも俺は嫌いにはなれないんだ…。だから…、不満とか、負担とか…、そういったものをお前に感じさせたくない」  そもそも解離性同一障害という例からすれば、ハヤトのようなパターンは稀なのかもしれなかった。主人格とは別だと理解しておきながら、嫌悪や憎悪、嫉妬のようなものは見られない。それどころか、主人格である隼人が傷付く事に腹を立てているのだ。その上、仕事においても能力に不安もない。 「お前が俺の事を嫌いなのは分かってる。それは…、大事にしたいと思う事さえ許してはくれないほどなのか…?」  縋るように甲斐が見上げる先で、だがハヤトは嫌味のような言葉を吐きつつも穏やかな表情をしていた。その端正な口角がゆっくりと動く。     
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