序章 夢現世

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――目を開けると、嗤う何かが立っていた、その人物は背丈が私よりも高い青年。風格は黒を闇を象徴とするマントを羽織り、顔立ちは整っている、そしてそんな傍らに俯きながら立ち尽くした女性が此方を悲壮の表情で見つめていた。この人は、私が守るべき筈だった、なのに自身の断末魔と共に彼女は彼奴に殺された事を現世に至り今知るのだった。 私は涙を流し、悲しみにうちしがれた。彼女を守れなかった後悔の念が今となり徐々に沸き上がってくる、その感覚で何故なにかを忘れていたような気がしたのかを思い出す事が出来た、皮肉にもあの世界での自分の末路を夢で体感したからこそに分かった答だったのだが。 余りにも切ない最期は、実に呆気ないものだ、私は結局彼女と寿命を迎えるまでは一緒に居られなかった。魔道使、その言葉のワードこそが今の自分の性格を物語っているのだろうか。皇女は死んだ、其を見届ける事さえ出来ずに終る自身に半ば嫌気が差した。 「皇女?私は、貴女をどうしてっ、守れなかったんですか……」 この身を粉にしてでも、皇女だけは守らなければならない筈だったのに、皮肉にも私は道中力尽きてしまった。騎士でも無ければ私はただの人間だ、けれど貴女を守りたい強い意思があったからあの力が自らに目覚めたのかも知れない。 呼び起こされた声に、うっすらと重い瞼を開けて、私は落胆と肩を竦める。否、最期に何が前世で私はどうなったかを知れないままに自然と目を覚ましたのだ。けれど明確に思い出す、彼女が自分と強い絆で結ばれた存在だったのだと。 アニメのよう、漫画の様な光景は、実際に前世で体験していたのかも知れない。私は何処か日本では無い世界からの転生者で、気付いたらこの地球に生まれ落ちたのだろう。しかし、生前の記憶が何故今になり甦ったのか、そこが疑問だった。 断片的に脳裡を過る光景は、私が貴女を自らの手で殺めた事だけだったのだ。恐らく自身は騙されていた、だからこそに過ちの代償に己も死んだのだろう。正確には私では無く、命じた何かが私に皇女を殺させたのだが。 「……っう、ごめんなさい、私は貴女を守るって約束したのにっ」 誓った友情は、一般人の私と気高い貴女との契りのようなものだった。だけど、もしも過去を変える事が出来たなら、次は絶対に貴女を死なせはしないと誓いたい。でも、きっと私はまた裏切るかも知れない。
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