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そんな心配をよそに、私たちの自転車が到着したのは、河口にかかる長い橋だった。
「こっち」
自転車を橋の上に留めて、土手をまわり、河原まで降りる。白く乾いたススキが茂っている中をかき分けて進んだ。川がこちら側に大きくカーブし、川原が狭くなっている。その先にゆるやかな流れが、透明な淵を作る一角があった。
両手を広げて、バランスを取りながら、その清らかな溜まりに近づいた。
「何か、いるの」
「うん、ちょっと待ってて」
淵のヘリは、苔や水草が覆っていた。
スニーカーの足が滑らないギリギリまでくだる。足を掛けられる場所が狭く、二人並んで立つのがやっとだ。怜央が、私に手を差し伸べた。
「ここ、滑るから」
「道連れにしないでね」
手のひらを重ねる。太陽がちょうど橋の影に隠れている。
怜央は、空いている方の手で、小さなプラスチックボトルを取り出した。
蓋を親指で押し開け、水面に何かを撒く。
白い、小さなCの形をしている。
「エビ?」
ぱしゃん、と水面に何かが勢いよく浮かび上がった。
ゴツゴツしたカーキ色のヘルメットのように見えたその生き物は、くくっとこちらへ向きを変え、怜央の爪先を目印に止まった。
大きさは、お茶碗を伏せたくらいだろうか。
「こいつ、ガーニーっていうんだ」
「ガーニー?」
「カブトガニ。サソリの仲間」
「えっ、あの古代生物?」
「楓、カブトガニ知ってるの?」
テレビか何かで見たことはある。頷くと、
「マジで! すげえ! 女で知ってたの、楓だけ。みんな、そんなの知らない、気持ち悪いって言われてさ」
女、が誰を指すのか気になったけれど、悪い気はせず、
「かわいいね」
と、ついお世辞を言ってしまった。
怜央は、喜びのバネが弾けたみたいに興奮し、
「去年のお年玉で買ったんだ! 水槽も。邪魔だから捨てろって言われたんだけど、ここで飼ってんだ」
と早口に自慢する。
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