お年玉のガーニー

3/14
9人が本棚に入れています
本棚に追加
/14ページ
 そんな心配をよそに、私たちの自転車が到着したのは、河口にかかる長い橋だった。 「こっち」  自転車を橋の上に留めて、土手をまわり、河原まで降りる。白く乾いたススキが茂っている中をかき分けて進んだ。川がこちら側に大きくカーブし、川原が狭くなっている。その先にゆるやかな流れが、透明な淵を作る一角があった。  両手を広げて、バランスを取りながら、その清らかな溜まりに近づいた。 「何か、いるの」 「うん、ちょっと待ってて」  淵のヘリは、苔や水草が覆っていた。  スニーカーの足が滑らないギリギリまでくだる。足を掛けられる場所が狭く、二人並んで立つのがやっとだ。怜央が、私に手を差し伸べた。 「ここ、滑るから」 「道連れにしないでね」  手のひらを重ねる。太陽がちょうど橋の影に隠れている。  怜央は、空いている方の手で、小さなプラスチックボトルを取り出した。  蓋を親指で押し開け、水面に何かを撒く。  白い、小さなCの形をしている。 「エビ?」   ぱしゃん、と水面に何かが勢いよく浮かび上がった。  ゴツゴツしたカーキ色のヘルメットのように見えたその生き物は、くくっとこちらへ向きを変え、怜央の爪先を目印に止まった。  大きさは、お茶碗を伏せたくらいだろうか。 「こいつ、ガーニーっていうんだ」 「ガーニー?」 「カブトガニ。サソリの仲間」 「えっ、あの古代生物?」 「楓、カブトガニ知ってるの?」  テレビか何かで見たことはある。頷くと、 「マジで! すげえ! 女で知ってたの、楓だけ。みんな、そんなの知らない、気持ち悪いって言われてさ」  女、が誰を指すのか気になったけれど、悪い気はせず、 「かわいいね」  と、ついお世辞を言ってしまった。  怜央は、喜びのバネが弾けたみたいに興奮し、 「去年のお年玉で買ったんだ! 水槽も。邪魔だから捨てろって言われたんだけど、ここで飼ってんだ」  と早口に自慢する。
/14ページ

最初のコメントを投稿しよう!