第12章 縋りつくもの

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「優奈、俺に隠したいことでもあるのか……?」 「い、いいえ! 違います」  隠したいことと言えば、昨日のあの車の件である。  優奈はまだ、瑞生にそのことを伝えていないのだから。  なにもひとりで抱え込むつもりはないし、東郷が知っているから、鳴瀬の時みたいにズプズプと沼にはまっていくことはないと考えている。  忙しい瑞生に頼って、疲労を与えたくはない。  瑞生に負担をかけないように努めることしか、自分にはできないのだから、相談すべきではないのだ。  甘え方を知らないからこその判断であり、優奈はこれが正しいと思っている。  訝しげにしている瑞生に、優奈は誤解させてしまうのは嫌だと拳を握り締めた。 「あとでお話しさせていただいてもいいですか?」 「あとで、か?」 「はい。あの、……駄目、でしょうか?」 「駄目ではない。……優奈、今日のランチは一緒に」  そこまで言って、瑞生は鈴音と優奈が昼ご飯の約束をしていないはずがないと考えたのか、言葉を途中でやめる。 「優奈、部長と食べてきなよ! 私も……こっそり彼とご飯食べてこようかな。というか、お願いしてみる」 「あ、ありがとう鈴音ちゃん」 「いいのいいの! 彼氏とランチっていいよね、楽しみだなあ」  まだ許可貰っていないけどと白い歯を見せて笑った鈴音は、時計を見てから席に着く。  だから優奈たちもハッとして、各々の席に着いた。  今日はどうやら、瑞生のサポート業務が多い日のようだ。  花井ひとりでは厳しい量であるからか、仕事開始一時間くらいでこちらに仕事が回ってきた。  ――今日、会議と打ち合わせばかりなのかな。  会議室の準備に、資料の手配。来訪者の案内に、お茶出し。 「はい、はい。本日の十四時ですね、かしこまりました。お待ちしております」  総務部長であるはずなのに、瑞生は営業部などの打ち合わせや会議に引っ張りだこである。  瑞生は期限つきの部長であり、来年には居なくなってしまうから、今のうちに色々と訊いておこう戦法なのだろう。
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