act.001

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「とにかく、俺はあの野郎と組む気はねェ!組むくらいなら死んだ方がマシだ!」 「ヤダ!絶対組んだ方がいーい!その方が絶対にいーい!」 両の拳を机にぶつけながら若大将は「やだ」を繰り返す。 パタパタという音が下の方から聞こえてくる。まさか、その机の下で足をばたつかせているのか。 「そんなに嫌ならゼロを倒してからにして!」 えっ、と後方から不意を打たれたような声。 「上等だコラ。ブチ殺してやる!」 「ヤダぁ!仲間同士で喧嘩するなんてヤダ!」 「どっちなんだよ!上に立つ分際で考え揺るがしてんじゃねェよダボ!」 若大将はまた「やだやだ」と上を仰いだまま首を左右に大きく振った。 埒が明かない。 許可は下りていないが、事が起きてしまえばこちらのものだ。 そう身構えたS001の肩に小さな衝撃が走った。 ぽん、と手を添えられていた。 この部屋にいるのは自分と目の前の上司と、もう1人のみ。 目を動かすだけでもそこにいるのが確認できる。 その距離に近寄られたことに、自分の間合いに踏み込まれていることに、一瞬たりとも気付けなかった。 S001はその手を勢いよく払い落とした。 相手はそのことに一切触れず、「このままじゃ話が片付かねぇ」とやはり間延びした声で言う。 ちらり、と奴の覇気のない半月型の目が自分に向いた。 フードの中もこの距離なら見えた。初めて『ゼロ』の顔を目にした。 こちらもまた、自分と大差ない、若い男だった。 「手柄は全部やるし、俺は特に手ェ出さねーから。まぁ形式上って事でヨロシク」 若大将はまだ音を立てたまま意義を唱え続けている。 きっと一切張っていないこの声は届いていない。 ゼロは言いたいことだけ言うと、そのまま真っ直ぐにドアへ向かい、そのまま出ていった。 歩いたのは僅か数歩。だが、奴の足音は一瞬たりとも聞こえては来なかった。 床が絨毯だと言うことを考慮しても、無音すぎる。 「ゼロもああ言ってるし、問題ないでしょ?」 静まりかえった若大将は頬杖をついて、口に弧を描き、目を細めた。 「だいじょーぶ。アイツは嘘つけるほど器用じゃないから。多分、一切手は出さないよ」 「……、」 S001は敬礼もせずに、そのまま早足で部屋を後にした。
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