流れ来るモノ

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私は小学校低学年からの3年間、家庭の事情で熊本のとある市に住んでいた。 同居していた祖母の家を出て、町営住宅に引っ越したのは小学校4年生の時。 学校まで子供の足で40分くらいかかる山の中にある団地ではあったが、祖母の家で気を使いながら暮らすよりも家族だけで過ごせる「家」が出来たことが嬉しかった。 大きな国道から道1本それれば途端に人通りも車通りも少なくなり、途中には小さな墓地といつも鼻を刺激する臭いの立ち込めたコンクリート処理場、鬱蒼とした木立や急な崖に囲まれた道が通学路。 夕方ともなればポツリ、ポツリと道を照らす街灯があるだけで、非常に寂しい道だったことを覚えている。 その頃の私には、翌年に入学を控えた妹がいた。 昼間は母が仕事に出ていたために、妹と2人で遊ぶ事が多かった。 もちろん団地には同年代の子供もいたが、幼い妹と一緒では仲間に入れてもらえないことが多かったからだ。 今とは違ってゲームやインターネットがあったわけでもなく、何をして遊ぶのか、何を使って遊ぶのかは自分で考えなくてはならない。 ちょうど誕生日に母の友人から川釣り利用の竿をもらったこともあり、少し離れた場所にある川まで頻繁に魚釣りに妹を連れて出掛けていた。 釣りに興味のない妹は土手や田んぼで虫を追いかけたり、花を摘んだりして自由に過ごし、私は家から持ってきた残りご飯をこねて針につけ、大して上手くもない釣りを楽しむ。 雲一つない秋晴れの空が広がったある日。 いつものように袋に入れた釣り竿を持って、妹と一緒に川へ向かった。 早速どこからか拾ってきた小枝を振り回してトンボを追いかけ始める妹、川の流れが緩やかに淀んでいる場所に釣り糸を垂らす私と、それぞれが好きな事をして過ごしていた。 やがて一人遊びに飽きた妹が自分も釣りの手伝いをすると言い出し、手近な石をひっくり返したり、持ってきたスコップで土をほじくり返したりして、エサになりそうな虫やミミズを探し出しては大騒ぎする。 最終的には「魚を釣る」事から「虫を探す」事に目的がすり替わり、こっちの方が大きいとか、あっちの方がたくさん見つけたとか、そんな他愛のない競争を始めていた。 土手の上で一心に土を掘り返していた妹が、何かを見つけたらしく、勢い良く私の方へ走ってきた。 危ないな、そう思った瞬間だった。
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