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優衣はいつものように門を開き庭へ入る。ギイイっという錆びた音が薄気味悪く響き、茶色い柴犬のような犬が、優衣に向かってワンワンと吠え立てる。だけどこれもいつものこと。
そして、家のチャイムを鳴らそうと玄関の前に立ったとき、優衣の頭上から声がした。
「うるせーぞ、シロ!」
ドキッとして顔を上げる。すると、ベランダから身を乗り出して、こちらを覗いている裕也と目が合った。
「これ。お手紙」
ぶっきらぼうにそう言って、右手でプリントを差し出す。『授業参観のお知らせ』と書かれてあるそのプリントは、優衣の手の中でしわくしゃになっていた。
「こんなの持ってこなくていいのに」
優衣の耳に裕也の声が聞こえる。ちょっとかすれた特徴のある声。優衣は手を伸ばしたまま、目の前に立つ裕也を見る。裕也は黒くて長い前髪に隠れた目で、ちらっと優衣の顔を見た。
「そんなこと言ったって……先生に頼まれたんだもん」
優衣はそう言うと、無理やりプリントを裕也の胸に押し付けた。裕也は面倒くさそうにそのプリントを受け取る。
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