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プロローグ
伝えたい言葉はこころの中に止処なく溢れる。
でもそのうちの一つも音にすることは許されなかった。俺が音にすることを許されたのは、愛する人を傷つける言葉だけ。
「別れよう、好きな人が出来たんだ」
思ってたよりもずっと上手に言えた。
傷付いたお前の顔は、俺の胸を抉った。
『別れたいだなんて、嘘だよ』
そう言って抱き締めたくて堪らない気持ちを、我慢した。強く握りしめたせいで、掌には薄く紅いものが滲んでいた。でも痛くはなかった。見えないところに在る傷の方がずっと痛むから。
お前の邪魔をするものは、俺自身だって許したくなかったんだ。
本当は誰よりも好きだよ、ごめんな。
きっと恋しくて、愛しくて、苦しくて、眠れない夜がこれから幾度も俺を苦しめる。
だけれども、それはお前を傷付けた俺に与えられた罰だ。
お前が俺の様に辛い思いをすることが無いように、早く俺のことなんか、忘れて……
初恋だった。
終わってから初めて気がついた。
泣いて目を腫らしたら、あいつに気持ちがばれしまう。
だから、泣くことさえも許されない想いだった。
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