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「……わかったよ。――トリュフにする」
その方が喜ばれるというだけでなく、失敗したチョコレートの始末にまで触れられてしまえば、甘いものが苦手な奏多が折れるしかなかった。
丸める分少しは手が込んでいるように見えるかと思ってトリュフを選ぶ。
「それでいいのよ。太ったら責任取ってもらうところだったわ」
どんな風に責任を取らされることになったのかは、恐ろしくて聞けなかった。
渡されたレシピを見ながらトリュフに挑戦する。
最初から、今日上手くテンパリングができなかったら、トリュフか生チョコに変更させるつもりだったのだろう、生クリームまで準備してあったのには完敗だった。
手を冷やしながら、冷えたガナッシュを丸めていく。仕上げにココアパウダーをまぶせば、今までの失敗はなんだったのかと思うくらい、簡単にトリュフが出来上がった。
「うん。美味しく出来たじゃない。これなら旭も喜ぶわよ」
試食した朱音の満足そうな顔に、ホッと肩から力が抜ける。
あとは前日に作って届ければいい。2月14日は平日だけど、渡しに行くくらいの時間はあるはずだ。
朱音が帰ったあと、ひとり黙々と洗い物をする奏多の頭の中は、あれから仕事が忙しくて逢えていない恋人が、チョコレートを受け取って嬉しそうに笑う顔で埋め尽くされていた。
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