前編

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前編

町に戻ってきた。さ、もう一息だ。気が滅入ることはさっさと済ませちまおう。 まずは引きずってきた『これ』をしかるべき場所に引き渡して。 それから、次に向かうのは銀行だ。専用のカウンターに行き、貨幣の入った革袋と、それから金属で装飾された宝玉を差し出す。 握りこぶしよりやや小さめ、薄い青緑のその宝玉には、覗き込むと淡く小さな文字が明滅しながらスクロールしているのが分かる。メモリーオーブ、と呼ばれるものだ。 「今回は、結構倒したんだな……」 カウンターの向こうの親父が、記録を確認すると、羨みとも蔑みとも感じられる声でつぶやいた。 そこに浮かび上がっているのは倒した魔物の数。魔物が死んだときに放出される魔素の量を自動的に記録するのがこの宝玉だ。 そして勇者は、この記録を銀行に見せることで、それに応じた報酬を得る。 旅の資金をこうやって調達させることで、勇者に多くの魔物と戦わせる経験を積ませる仕組みと言うわけだ。 銀行の親父が手慣れた手つきで記録に応じた貨幣を並べ、ついで革袋に入っていた貨幣も積んでいく。オレはそれを、白けた心地で眺めていた。 (ああ、そうだな……結構倒した。結構倒したのに……なあ) そうして、几帳面に並べられた貨幣たちは、オレの目の前で、きっちりと二等分に分けられた。
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