序章 私の秘密

1/2
355人が本棚に入れています
本棚に追加
/129ページ

序章 私の秘密

時間は残酷だ。 否応なしに変化させてしまうから、嫌いだ。 湯気で曇った鏡にシャワーを掛けると、 そこにもう一人の私が真っすぐな瞳を向けて、こちらを見ていた。 吸い寄せられるように近付くと、鏡の中の自分があの人に見えてくる。 男女の双子は凡そ二卵性双生児だという。 だけど、私達はまるで一卵性双生児のようにとてもよく似た顔をしている。 その人の顔に触れたくて手を伸ばす。 でも、鏡という冷たい壁に押し返された。 どうしようもなく触れたくて。 薄い壁を突き破って、手繰り寄せたくなる衝動を感じて胸が苦しくなった。 いつから私は… 鏡の向こう側にいる自分じゃない彼の事を想うだけで、 切なくて苦しくて涙が滲む。 自分の胸のふくらみに手をかけて、ギュッと強く握りしめた。 小さい頃は殆ど変わらなかった体型は今ではもう、明らかな差が生じている。 逞しくなる彼の体と、女らしくなる私の体。 時間は否応なく、私達を引き離そうとしているようだと感じてしまう。 どうして彼は…、私から離れて行こうとするの? その、やり場のない気持ちを込めて、冷たい鏡の向こう側にキスを……。 image=509513467.jpg
/129ページ

最初のコメントを投稿しよう!