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序章 私の秘密
時間は残酷だ。
否応なしに変化させてしまうから、嫌いだ。
湯気で曇った鏡にシャワーを掛けると、
そこにもう一人の私が真っすぐな瞳を向けて、こちらを見ていた。
吸い寄せられるように近付くと、鏡の中の自分があの人に見えてくる。
男女の双子は凡そ二卵性双生児だという。
だけど、私達はまるで一卵性双生児のようにとてもよく似た顔をしている。
その人の顔に触れたくて手を伸ばす。
でも、鏡という冷たい壁に押し返された。
どうしようもなく触れたくて。
薄い壁を突き破って、手繰り寄せたくなる衝動を感じて胸が苦しくなった。
いつから私は…
鏡の向こう側にいる自分じゃない彼の事を想うだけで、
切なくて苦しくて涙が滲む。
自分の胸のふくらみに手をかけて、ギュッと強く握りしめた。
小さい頃は殆ど変わらなかった体型は今ではもう、明らかな差が生じている。
逞しくなる彼の体と、女らしくなる私の体。
時間は否応なく、私達を引き離そうとしているようだと感じてしまう。
どうして彼は…、私から離れて行こうとするの?
その、やり場のない気持ちを込めて、冷たい鏡の向こう側にキスを……。
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