温もりは、あなたと

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 さっきからキーボードを叩く音が止まないのは、筆が乗ってきた証拠だろう。同じキーを繰り返し叩くのは、ミスタイプをしてしまったからだ。  長い間ここに入り浸っているせいか、彼おおよその指運びがわかるようになった。少し気味が悪いな、と自分でも思いつつ、ふとした拍子に「あ、エンター押したな」とか「しばらくは筆が止まらなそうだな」とか考えてしまう。  暇なのもあるが、それほどタカヤのことを意識しているのだろう。  時々、それに気づいて体が熱くなる。  数ページ読み進めたところで、冷たい呼び出し音が鳴った。誰か訪ねてきたらしい。  編集の人かな、と思ったが、玄関の向こう側の落ち着かない雰囲気を察して、私は口元を綻ばせた。 「サラ、悪いけど――」 「うん。今、行くから」  背中越しに頼んでくるタカヤへの返事もそこそこに、私はこたつから這い出て、玄関に向かった。 「サラー! 遅いよお! 寒い寒い!」  扉を開けて最初に入ってきたのは花だった。彼女は茶色く染めた髪ごと、首にマフラーを巻き、着崩した制服のスカートを閃かせながら私に抱き着いてきた。  剥き出しの掌が私の耳を掠める。 「わ、花の手めっちゃ冷たい!」  身を捩って彼女を引き剥がそうとするも、なかなかの拘束力で放してくれなかった。 「ちょっと花! 邪魔だから退きなさいよ!」     
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