1

1/9
0人が本棚に入れています
本棚に追加
/14ページ

1

真っ暗― 「ここはどこだ」 次第に明るくなる。 「俺は…誰だ」 明るくなると、そこは廃墟。 上から、かなりの高さから見下ろされた廃墟。  (声の主の顔はまだ出さない) コンクリートの床に数人の…三人の死体が転がっている。 それぞれ断末魔のすさまじく歪んだ形相で。 男ひとりと、女ふたり。 傍らに転がっている空の薬瓶。 「誰だか教えてやろうか」 横からいきなり声をかけてきて、ぬっと顔を突き出した奴― 福々しく丸々と太りにこにこしている男とも女ともつかない。 「誰だ、おまえは」 (まだ姿は見えない) 「さて、死神と言われたり、三途の川の渡し守と言われたり、どうかすると閻魔大王と言われたり」 「それにしては、福々しい恰好しているが」 「もともと決まった形なんかないのさ。しかし人間と話す時には一応姿を決めておかないとな。いくら死んでいても」 「死んでいる? 俺が?」 「あの死体の中の一つさ」  死体の顔、顔、顔。 「どれだかわかるか」 顔、顔、顔。 「…わからない」 福の神の顔をした死神は答える。 「自分の顔も忘れたか。死んだら、すべて水に流したってわけか」 「男か女かも、わからないか」 「わからない」 「あるいは」 「あるいは、なんだ」     
/14ページ

最初のコメントを投稿しよう!