四十四

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「どの程度の入院が必要だ?」 「状態が落ち着いて、尿管を必要としなくなったら可能ですが……対応できる人員がいない場合は無理ですよ。普通に家で暮らすのは難しい」 「それはまた相談させていただきます」  面談室をでて特別室に向かう。病室にはベッドが一つ、そこに横たわるヨシキの顔はいつにも増して真っ白い。 「くそっ!」 「月光様。ヨシキ様より伝言です」  ヨシキの傍に控えていた閃が差し出したのはICレコーダー。 「最後になるかもしれないからと……」  くそっ!閃に罪はないというのに、私はひったくるようにレコーダーを受け取った。 「閃……すまない」 「いえ、お気持ち……わかります」  白牙と閃はそのまま病室を出ていった。  頬に触れると体温を感じてどっと安堵が押し寄せる。呼吸を確かめ胸に手をやると規則正しい鼓動が伝わってくる。  崩れ落ちるようにベッドの脇にしゃがみ込むと普段考えもしないこの世の神全てに感謝した。生きている。生きていてくれた。  握ったレコーダーをまじまじと見つめた後、スイッチを押した。 『コウ……お疲れ。 手術は終わったかな?俺の足はくっついているかな、それとも、もげてしまっているだろうか。どっちにしても迷惑をかけるな。不自由になるから人の手を借りないと。 階段も登れない。自分の部屋にいけないじゃないか、どうしたらいい? すべてを終わらせたか? ゴメンな、俺また約束を破っちゃったよ。血まみれで帰ってきたコウを抱き締めて、風呂で体を洗ってやるって言ったのに。それをしてやれない……ゴメン。 元気になったら一緒にお風呂に入ろうな。 元気になるま……で、待ってて……くれる……か? コウ……好き』  涙声で告げられた好きという言葉とともに静寂が訪れる。約束?そんなことはいい!自分に誓ったはずだろう?私はヨシキを守ると強く強く何度も誓ったはずだ! だが実際は反対ではないか……私が守られている。天空に輝く月のくせに! 『しょせん月は太陽から光をもらって輝いたふりをする醜い星でしかない』 どこからともなく聞こえてくる声。これは私の深層に眠る怯えの言葉か?それともあの世から緑湖が囁いているのか? 「くそっ!何を弱気になっているのだ!ふざけるな!」  ベッド脇のイスを蹴り上げると派手な音ともにイスが転がり、壁にぶつかった。
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