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もうダメだと思ったどん底から、あの笑顔が、この味が、もう一度生きる気力を与えてくれた。
「この菓子がなければっ……俺は、ここには、いなかった」
寡黙なグウェナエルが突然泣き出したことに周りは騒然としていたが、ジョスだけは隣で弟を静かに見守った。
自分の想いに気づいたグウェナエルは、この品評会でたった一人の愛しい名前を挙げた。他の審査員もその菓子を評価するものが多く、遂にその菓子は賞の一つ、王室賞を授与された。
品評会で彼の麗しき殿下が推したと話題になったビターチョコラスクはすぐに街の一番人気となった。受賞してからというもの、店に長蛇の列ができ、バレンタイン当日も飛ぶように売れていた。最後のお客を見送る頃には、とっくに営業時間を超えていた。ラスクはすべて完売した。
ふぅっと一つ息を吐いて椅子に座った。思い出すのは今より少し静かで、穏やかな時間。毎日思い出すほど自分にとって大きな存在の彼。もう手の届かない人だと知ってしまってからも、その想いは強かった。
「はぁー…諦め悪いなぁ私」
立ち上がったその時、ドアベルがカランと音を立てて誰かを招き入れた。
「すみません、もう閉店して…………っ!」
振り返った先には、恋い焦がれた金髪翠眼の男性の蕩けるほど甘い微笑み。
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