“藍”感 -aikan-

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自室に戻ったグウェナエルはそのままベッドへと沈み込んだ。暗い部屋で呆然と天井を見つめて、先ほどの王の言葉を思い返していた。 折り目正しく、容姿端麗、第二王子として身分も申し分ない、三拍子揃った彼の周りには常に女性が寄ってきた。兄は将来王位を継ぐため、それなりの女性が相手となるが、そこからあぶれた女性や美しくともそれ程身分の高くない女性が彼に近づいてきてはアプローチをしていた。彼自身もそれらを無下にできる性格ではなく丁寧に接しているが、その実ほとんど外面のようなもので、内心は随分と辟易していた。選んでもらうために必死になって着飾り、我先にと貢ぎの菓子を持ってくる姿が彼には醜く映って仕方がなかった。いつしか女性を嫌い、甘い菓子も敬遠するようになった。 そんな彼が一番嫌っているのがバレンタイン。女性と香水と甘い匂いに溢れたこの季節が、彼の悩みで、今年もそのイベントが間近に迫っていた。それに追い打ちをかけるように、父からの縁談の話が、彼の心にずっと住み着いていたある思いを大きく膨らませた。 (こんな(なり)でなければ……) 今自分の持っているものを全て捨ててしまえば、誰も見向きもしないんだろう。目をギラギラさせて色めき立つ彼女たちは“グウェナエル”のことなど誰も見ていない。王子としての身分や容姿に惹かれているだけなのだとずっと感じてきていた。 外を見ると街が広がる。朝日が昇り始め、眼下を全て照らす。バルコニーに近づいて、屋根に阻まれて昇り来る朝日が自分の手前までしか照らしていないのを見て、改めて狭く限られた要塞の中で生きてきたことを感じさせられた。 今の自分に心底嫌気がさした時、強い衝動に駆られた。 その日、王城から第二王子の姿が消えた。
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