始まり

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始まり

「だから、その、なんていうか……ごめんなさい!」 短い髪がなびくほどに勢いよく、額と膝がくっついてしまうのではないかと思うくらいに深く、彼は私に向かって頭を下げた。 かと思ったら瞬時に身を起こして、そして私に背を向けて、彼は教室を飛び出していった。 私はただただ呆然として、彼が開け放ったまま出ていった扉を真っ白な頭で見つめていた。 背後にある窓の向こう側から、生徒たちが騒ぎながら帰る声が遠く響いている。 けれど、私の世界に、その音は入ってこなかった。 キィン、と耳鳴りがした。 きゅ、と誰かが廊下を踏みしめる音がして、私ははっと我に返った。 彼が出ていった教室のドアから、おずおずと友人たちがこちらを覗き込んでいた。 「えっと、その……なんか、ごめんね」 聞き覚えのあるセリフが、朝美の口からポロリと漏れる。 「だ、大丈夫だよ。男はあいつだけじゃないんだからさ。むしろ、フユの魅力がわかんないとか、橋本全然見る目ないし」 楓の声を聞き取る頭が、どこか妙に冷たい。 『いけるって、フユなら!』 『橋本、最近フユのこと意識してるっぽいし』 つい一時間前に聞いた二人の声が、まるで数年前のもののように思い出された。 下校時刻を告げるチャイムが、頭の上で、虚しく響いた。
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