部長の焦燥

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「ふっざけんなッ!兄貴の嫁に手出すほど馬鹿じゃない!」 「なにそれっ!開き直るなん…て、………………へ?」 ありったけの愚痴を吐き出していた桜は、自分に跨る彼の顔を見上げて短く息を吸った。視線の先の彼は怒りに顔を引き攣らせていた。 「要するにお前は俺とイルザが男女の仲だと思ったのか?」 「はい」 「それを勝手に誤解して最近不機嫌だったと?」 「はい」 「だから飲み会で仕返ししたのか?」 「?…いえ、それは」 「で、挙げ句の果てに俺を罵倒しまくったと!?」 「…ぐうの音も出ません」 畳み掛けるような尋問に桜は黙り込むしかなかった。しかし吐露した桜の不安は本当だった。ずっと心の奥で引っかかっていた思いを、誰にも打ち明けられずにずっと苦しんでいた。 それが蓋を開けてみればこんなもんかと、悔しさと拍子抜けした安堵で思わず目の前が滲む。
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