6月

2/4
66人が本棚に入れています
本棚に追加
/119ページ
ーーーーーー ーーーー 「ーー夢」  あれから数分が経過したのか……あるいは、数秒しか経っていないのかーー  突然呼び掛けられたその声に、私は楓くんの肩口から顔を覗かすと、声のした方へと視線を向けてみた。  すると、優雨ちゃんがニッコリと微笑んで私を見ている。 「……ごめんね、夢。私……っ、夢から大切な人を、奪ってしまった……。っ本当に……、ごめんなさい。……今まで一緒にいてくれて、ありがとう……っ」  涙を流しながらも、最後に優しく微笑むとゆっくりと教室を出て行った優雨ちゃん。 「ーー朱莉ちゃん!」  楓くんが声を上げると、呆然と立ち尽くしていた朱莉ちゃんは、ゆっくりとこちらを振り返った。  その身体は今にも崩れ落ちてしまいそうな程に、ガクガクと震えている。 「……っ奏多が……っ。……奏多がぁぁ!!!」  私達を視界に捉えると、(せき)を切ったように泣き出した朱莉ちゃん。 「……うん、わかってる。俺は、救急車を呼ぶから……。朱莉ちゃんは、夢ちゃん連れて優雨ちゃんを探してきて」 「えっ……。なっ……何……、で……?」 「2人に、この現場を見せたくないから。それに……優雨ちゃん探さないと、危ないよ。……きっと、死ぬ気だと思う」 「えっ? ……っ」 「そんなの嫌でしょ? ……だから、探してきて」  2人のやり取りをボンヤリと聞いていた私は、まだ震えて力の入らない身体を楓くんに支えてもらうと、抱き抱えられるようにして立ち上がった。 「……夢ちゃん、しっかりして。優雨ちゃんを救えるのは、夢ちゃんだけだよ」  視点の定まっていなかった私は、その言葉でゆっくりと楓くんに向けて視線を合わせた。  私の目の前で、悲しそうに微笑む楓くん。  その姿を見て、流れ続ける涙を拭いながらも小さく頷く。  朱莉ちゃんとしっかりと手を繋ぐと、お互いに力の入らない身体を支え合いながら、頑張って廊下へと歩みを進める。 (優雨ちゃんを、探さないと……っ)  その思いだけを胸に、震える身体を懸命に動かして教室を後にしたのだったーー
/119ページ

最初のコメントを投稿しよう!