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「ーー夢」
あれから数分が経過したのか……あるいは、数秒しか経っていないのかーー
突然呼び掛けられたその声に、私は楓くんの肩口から顔を覗かすと、声のした方へと視線を向けてみた。
すると、優雨ちゃんがニッコリと微笑んで私を見ている。
「……ごめんね、夢。私……っ、夢から大切な人を、奪ってしまった……。っ本当に……、ごめんなさい。……今まで一緒にいてくれて、ありがとう……っ」
涙を流しながらも、最後に優しく微笑むとゆっくりと教室を出て行った優雨ちゃん。
「ーー朱莉ちゃん!」
楓くんが声を上げると、呆然と立ち尽くしていた朱莉ちゃんは、ゆっくりとこちらを振り返った。
その身体は今にも崩れ落ちてしまいそうな程に、ガクガクと震えている。
「……っ奏多が……っ。……奏多がぁぁ!!!」
私達を視界に捉えると、堰を切ったように泣き出した朱莉ちゃん。
「……うん、わかってる。俺は、救急車を呼ぶから……。朱莉ちゃんは、夢ちゃん連れて優雨ちゃんを探してきて」
「えっ……。なっ……何……、で……?」
「2人に、この現場を見せたくないから。それに……優雨ちゃん探さないと、危ないよ。……きっと、死ぬ気だと思う」
「えっ? ……っ」
「そんなの嫌でしょ? ……だから、探してきて」
2人のやり取りをボンヤリと聞いていた私は、まだ震えて力の入らない身体を楓くんに支えてもらうと、抱き抱えられるようにして立ち上がった。
「……夢ちゃん、しっかりして。優雨ちゃんを救えるのは、夢ちゃんだけだよ」
視点の定まっていなかった私は、その言葉でゆっくりと楓くんに向けて視線を合わせた。
私の目の前で、悲しそうに微笑む楓くん。
その姿を見て、流れ続ける涙を拭いながらも小さく頷く。
朱莉ちゃんとしっかりと手を繋ぐと、お互いに力の入らない身体を支え合いながら、頑張って廊下へと歩みを進める。
(優雨ちゃんを、探さないと……っ)
その思いだけを胸に、震える身体を懸命に動かして教室を後にしたのだったーー
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