4.上海の恋人

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あまりにも荷物が多いときは僕も一緒に持って、莉莉の部屋まで行った。 古い建物なので入り口や廊下は暗く、階段は狭く急だったが、作り自体はとてもしっかりしているように見えた。 見覚えのあるアーチ式の入り口をくぐり、生活感満載のその小路を奥に進み、突き当たりを右に曲がったマンションの5階に莉莉の部屋はあったハズだ。 すれ違う住人が、珍しそうに僕と安奈を見たが、中国で人目を気にしていたら、一歩たりとも前に進めない。構わず、進んだ。 「ここを上がるんだ」 そう言って、急な階段を上がった。5階まで上がると息が上がる。 踊り場に二つの部屋が向かい合っている。その右側の部屋のドアを開けた。中は日本で言えば3DKの間取りになる。 その一つに大家が住んでいて、あと二つの部屋に借り手が住んでいる。入った場所のDKは共通の場所になる。 乱雑に物が置かれたDKを横切り、一つの部屋の前に立った。 「ここだったんだけど・・・」 今も莉莉が住んでいるかどうか判らない。ノックしようかどうか迷っていた。 それを察したのだろう。安奈がノックしてくれた。 返事が無かった。 安奈が、もう一度ノックして「ユーレンマ(誰かいますか)? 」と言った。 その気配を察して、見覚えのある(莉莉に連れられ部屋に何度か来たとき、よくDKの椅子に座っていた)老婆の大家が自分の部屋から出てきた。 安奈と大家が少し会話して、僕を振り返り言った。 「莉莉さんという人はここに住んでいますか、と尋ねました」 「それで?」 安奈は少し言いよどんで・・・ 「ここは莉莉さんの部屋ですが、莉莉さんはいませんと言っています。・・・・1週間ほど前に病院で死んだそうです」 「え?」丁度メールが来なくなった頃だ。 また、少し安奈と大家が会話した。 「明後日、莉莉さんの親戚の人が荷物を引き取りに来るそうです」 大家が何か言って、安奈が応えたが、僕には言わなかった。 「今、なんて言ってたの?」と尋ねた。 「今月の家賃9000元をまだ貰っていない、と言っています」 僕が付き合っている頃は7000元だったので1年半で30%ぐらい値上がりしてる。 僕は銀行で引き出した1万元を鞄から取り出し、千元を抜き取り、大家に渡そうとした。
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