奈落ジャンクション横断セヨ

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奈落ジャンクション横断セヨ

 二人は、通学路の果てへとたどり着いた。  目線の先には、目的地である長方形の建物が構えている。学校まであと少し。  しかし、二人の足元の前に広がるのは、一本の大きな車道。  学校へ行くには、これを横断しなければならない――  透明拘束道路(とうめいこうそくどうろ)『奈落ジャンクション』。  その名前のとおり、実体のない透明な道路である。  遥か昔に老朽化して崩れ落ちていったアスファルトの霊魂たちが、文学的概念である『道なき道』を忠実に再現した非科学的超常現象の一種である。  この透明な車道の上では、かつて産業廃棄物となって散っていった自動車たちが怨恨まみれの二酸化炭素を無限に排出しながら絶え間ない交錯を続けている。奈落の底に落ちまいと、皆懸命に走り続けている。(底は地球の中心核、灼熱のマグマ地獄である)  関係者以外は、この道路と車を視認することができず、触れることもできない。  つまり、横一直線に広がる大きな穴である。  生身の人間にとっては、横一直線に広がる縦幅約50メートルのただの大きな穴でしかない。  要は、この大穴によって学校前の通学路がまっぷたつに分断されてしまっているのだ。  ――ビュウウウウ……  架け橋は存在する。  中央に浮かぶ、横断歩道を模したハシゴ状の白線。  この白線の架け橋だけが、実体として浮かぶ唯一の存在。  これにより、人々は横断することができる。しかも、決して崩れ落ちることのない安心設計。アスファルトが死ぬ間際に残した優しさの結晶である。  向こう側へと渡るには、この白線の架け橋を綱渡り感覚で歩いていけばいいのだが、事はそんなに単純ではなかった。 「ユカリ、俺の後ろに下がれ」 「うん」  握り合っていた手を離した二人は、それぞれに体勢を整えた。  そう。  戦わずしてこの橋を渡ることはできないのである。  人類の敵は、いつの時代も〝人間〟だ。
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