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「力になれなくてごめん」
「へ? なんの謝罪?」
「部屋の料金、負担できないお詫び」
藤枝はぽかんとしたままだが、教室は静まりかえっていた。
灰田がわたわたと俺と藤枝の間に体を滑り込ませる。
「ごめん。こいつ、勉強ばっかで疲れてるから。ごめんね。ほんと気にしないで」
立派な友人はクラスメートと俺の間を取り持とうとするが、時すでに遅し。
何人かが睨みつけてくる。
「俺がきつく言っとくから。じゃ、また明日」
灰田に無理矢理引っ張られ立ち上がる。
「鮫島、すげぇ感じわりぃ」
名前も知らない男子生徒だった。
確か、藤枝を鳴介と呼んだ相手。
「格好だけじゃなく、性格も最低だな」
視界を狭める前髪の奥で、俺は目を伏せた。
肩まで伸びた髪が俺の表情を隠すように頬にかかる。
灰田は立ち止まり、男子生徒を振り向いた。
「お前はいつもいつも! 言い過ぎだからな、それ!」
灰田は笑顔で怒っていた。
この二人は知り合いなのか。
「最後の高校生活なんだ。いいもんにしてこうぜ」
男子生徒が居心地悪そうに視線を逸らす。
ここで反撃されない辺りが、灰田の人徳なのだろう。
「三Bの皆さん、明日は明日の風が吹く感じでよろしく」
クラスメートに歯を見せて笑った友だちの横で、俺は俯いた。
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