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だが、拾ってすぐに俺になついて顔を擦り付けたりするものだから、可愛いくて手放せなくなって、そのまま飼っているのだ。
「さあ、飯にするか」
俺は籠を開けて火トカゲを外に出す。
火トカゲは差し出した俺の手に乗り、そのまま肩まで登った。
台所の前に立って、昨日の夜作った薬草入りシチューの入った鍋をコンロの上に乗せる。
「火、頼むな」
火トカゲはコクンと頷くと、コンロの上に飛び降りて、鍋とコンロの間に向かって火を吹くと、鍋全体を包むような大火力で、コンロに火が着いた。
「相変わらず下手くそだな」
俺が呟くように言ったのが聞こえていたのか、火トカゲはシュンと項垂れたように下を向く。
コイツの吹く火は、大き過ぎるか、小さ過ぎるか、どちらかだ。
「ああ、だが火には変わりないだろ?
着いたから大丈夫だぞ」
俺が火トカゲの頭を撫でてやると、目を閉じて俺の指に自分から頭を擦り付けてくる。
他の火トカゲはどうだか知らないが、この火トカゲはどうやら俺の言ったことを理解しているようだった。
コイツを拾ってから、俺の口数は増えたと思う。
つい、火トカゲに向かって話し掛けることが多くなったから、端から見たら独り言を言っている危ないヤツかも知れない。
一人には慣れているが、こういう生活も楽しいものだ。
温めたシチューを皿によそって、戸棚から固いパンを取り出す。
それを両手に持って食卓に置くと、火トカゲもチョコチョコと歩いてついてくる。
俺は火トカゲを掴んで食卓の上に乗せた。
パンを小さく千切ってシチューに浸し、それを火トカゲに差し出すと、火トカゲは大きな口を開けてかぶりつく。
「やっぱり昨日よりも今日の方が煮込まれて美味いな」
自分の分も同じようにして食べてから感想を漏らすと、火トカゲは二回頷いてから、俺に向かって小さなギザギザの歯が並んだ大きな口を開ける。
「そうか、お前もそう思うのか?
よし、もう一口食うか」
シチューに浸したパンを、火トカゲは美味そうに食べている。
「あー、いいよな、こういうの。
まさかお前に癒されると思っていなかったよ」
火トカゲはパンを飲み込みながら、返事をするように長い尻尾をブンブン振り回した。
「お前、俺の言うことがどこまでわかっているのかねえ?」
火トカゲの小さなクリクリとした黄色く丸い目が、俺に何かを言いたげに見つめているように見えた。
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