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空は青く晴れ渡っていた。
堤防に座って海を前にしながら、私はバッグの中から桜色の封筒を取り出した。
封筒の中に入っているのは一枚の写真。旅行先で、幸せそうに微笑む背の高い男の人と、その隣ですました顔をして立っている和奏。
半年前に付き合い始めたという、十歳年上の和奏の彼氏を見たのは初めてだった。
和奏からは何も私に話してくれないが、家に遊びに来たという彼のことを、母は「とても優しくて、誠実そうな人」と言っていた。
十歳も年上の彼ならば、きっと和奏のわがままも、余裕で包み込んでくれるに違いない。
和奏のふてくされた顔を思い出し、ふっと笑って写真を封筒へ戻そうとした時、裏に何かが書かれていることに気がついた。
ペンで殴り書きのように書かれたその文字は、見覚えのある和奏の文字。
――お姉ちゃん、結婚おめでとう。
胸がじんと熱くなった。
「琴音」
名前を呼ばれて振り返る。
日曜日の午後。早番で仕事が終わった蒼太がそこに立っている。
「ごめん。待った?」
堤防から降りようとした私に、蒼太は手を差し伸べて言った。
「ううん」
蒼太の手を借りてそこから降り、そのままふたり手をつないで歩く。
私の髪と、カーディガンを羽織ったワンピースを揺らすのは、春のやわらかい風だった。
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