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昭和天皇崩御。
松が明ける直前にそのニュースが流れるや、世の雰囲気がさらに暗転した。バブル好景気真っ盛りの年末年始のはずが、前年のお祭りイベントや祝賀行事に続き一般的な忘年会や新年会までもが縮小やキャンセル続き。そうでない輩達への不謹慎バッシングが飛び交っていた日本は、いよいよ今にも沈没しそうな喪の空気に覆われた。
一九八九年の新年はそんな新年だった。
その頃の成人式は一月十五日きっかりで、町主催の成人式も大部分の自治体に同様その日に行われていた。大学二年の亜子は、北関東の田舎町に帰省中だった。
「昭和六四年ーーじゃなくて平成元年、か。平成始めての成人だね。私達」
成人式の前夜、地元の高校のOBでクラスの誰かの知り合いだという人の店で、同窓会というにはややこじんまりとした集まりが開かれた。
初老の親戚宅の鴨居に皇族一家の御写真が散見されるような田舎だったが、自粛の同調圧力は首都圏の都市部ほどは強くはないようだ。それでも貸切の店の正面、シャッター商店街の表通りを心なしか気にしつつひっそりと乾杯する。
「亜子は式が終わったらすぐ東京に戻るの?」
かつての仲良しグループの一人で県内の短大に進学した貴子が聞いた。
「うん、そのつもり」
亜子は答えた。大学の冬休みが八日の日曜日までだったから夜行バスで一旦東京に戻り、土曜日の午前の講義を終えた後、再び帰って来て彼女達と合流した。
「今年は成人の日が日曜日で、振替休日と連休だから助かったけど」
「東京の大学って忙しいんだね。冬休み、短くない?」
やはりグループの一人で貴子とは別の専門学校に進学した優美が言う。
「だって県内はまだ冬休みだよ?」
「その代わり、夏休みや春休みが長いんだよ」
「四年制の大学生って、もっと遊んでられるんだと思ってたけど、亜子を見てたら違うよね」
明るいムードメーカーの優美は、三人の中で一番「キャピキャピ」とか「ルンルン」といった流行の擬態語が似合う。
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