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* 六花の涙 *
雪が降る場所に憧れていた。なにもかもが息を潜める極寒の大地で暮らしたかった。
そこでならだれかの優しさに怯えることもなく、一人孤独を噛み締めて生きていけるから。
*
牡丹雪が降るくもり空の夜更けに、おれは無人駅の駐輪場で幼馴染みを待っていた。
かじかんだ指をたしかめるように、おれはなんどもなんども傘の柄を握りなおす。
『もうすぐ着く』と携帯に連絡が来てからしばらく経つが、メッセージの送り主はなかなか姿を現さなかった。
発光する携帯画面をぼうっと眺める。
そこには妹の茜からの二ヶ月前のメッセージが、返信されないまま残っていた。
『お兄ちゃん、今年のお正月は帰ってくるの』
おれは逃げるようにコートのポケットに携帯を滑り込ませた。
裸木の表面に白い雪が積もり、氷ついた歩道を街灯が照らしている。
春はまだ遠い。
「すまん、待たせた」
どれだけの人々を見送ったあとだろうか。
無防備な肩を叩かれてふりかえると、耳にふかふかのヘッドホンを付けた光が満面の笑みで軒下に立っていた。
モコモコの防寒着で黒のリュックを背負っている。
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