出逢い

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出逢い

 バスに揺られて、数時間。舗装されているとは言え、山の中を走るバスは大きく揺れます。どこに連れて行かれるのか、少し不安に思っていると、次第に広い道へと出ました。  それて、ようやく目的地に着きました。 「ここが、実験場所となる施設です」    無数の一戸建てが並ぶ分譲地。元々はどこかの不動産屋が売りに出していた物件ですが、ベッドタウンとしては、山の中にあるため利便性が悪く、売れ残ってしまったようで、それをこちらの大学が買い取り、実験場所として使っているそうです。  大学とは、そんなに儲かるものなのかと思いましたが、大企業がスポンサーになっているそうで、報酬金額が高いのも納得できました。 「それでは、今から番号を読みますので、呼ばれた方は前に出て来てください。では、三番と七番の方」 「はい」 「では、あちらの一番と書かれた家で過ごしてもらいます。鍵は開いていますので、荷物を持って入ってください。一ヶ月間よろしくお願いします」  面接でも説明があった様に、男女がペアとなり一ヶ月同じ家で過ごします。環境が性格を作るように、同じ環境で過ごしていると、自然と好意を抱くそうで、それを証明する為の実験です。  最初に呼ばれた男女は、家の中に入って行きました。  さて、第一の関門。このペア決めは、とても重要です。一ヶ月もの間、一緒に寝食を共にするパートナーとなる訳ですから、当然変な人に当たりたくはありません。先ほどの面接でも言っていた様に、必ずしも相性の良い相手とは限りません。先ほどの男女も、男性の方は頭がハゲあがり、お腹も出ている中年男性でした。女性の方は私よりも若く、どう見ても歳の差も離れ、相性が良いとはいてませんでした。  正直、私が呼ばれなくてホッとします。 「次は、六番と十四番の方。前へお願いします」 「……は、はい」  十四番は私だったので、私は前へと出ました。ドキドキしながら待っていると、六番の男性が前に出てきました。 「初めまして、よろしくお願いします」 「…………」    背の高い、笑顔の素敵な男性。鼻筋が通っていて、薄いピンク色の唇から覗く白い歯が印象的。短く揃えた髪が似合っていて、ハッキリ言って私のタイプでした。 「どうしました?」 「……いえ、す、すいません」  思わず、男性に見蕩れてしまい、声が上手く出せませんでした。手には、いつもの様に汗が滲んでいて、脇からも汗が出ています。  男性にばれないか心配しながら、鞄を持とうとすると、男性はごく自然に、当たり前の様に、私の鞄を持ってくれました。 「随分と重いですね」 「す、すみません。私、持ちますから」 「大丈夫ですよ。それに、こんなに重いなら男が持つべきだ。それより、早く行きましよう」  容姿だけでなく、相手を気遣う優しい男性に、好印象を持ちました。それまで付き合っていた男性に、荷物を持ってもらう事はありませんでした。自分の荷物だから、当たり前かもしれませんが、道を歩くカップルの男性が、彼女のバッグを持っているのを見ると、羨ましく思っていました。  そんな夢が、呆気なく実現してしまった事に感動していると、緊張している私を気にして、男性の方から話しかけてきます。 「バスがずっと山道を登って行くから、正直どこに連れて行かれるのか心配になりませんでした?」 「それ、私も思っていました」 「やっぱり! 同じ事を思っている人がいて良かったです。でも、自然に囲まれた場所で一ヶ月も過ごすなんて、ある意味贅沢かもしれませんね」 「そうかもしれませんね。普段は、こんな所に来ようとも思いませんから」 「うん。空気は美味いし、それに緑が多くて安らぐなあ。思い切って参加してみて良かったです」 「そうですね。私も参加して良かったです」  人見知りの私も、気づけば自然と会話をしていました。普段なら、緊張して何か話さないと――と考えてしまうのですが、自然と言葉が出てきます。  この男性が纏っている、雰囲気がそうさせるのか、この豊かな自然のおかげなのかわかりませんが、自然体でいられる自分なんて誰にも見せた事がありませんでした。友達といても、どこか遠慮してしまい、いつも誰かの影に隠れ、顔色を伺っていまう私ですが、何も考えず開放的な気分はとても心地良いです。  しばらく、会話を楽しみながら歩いていると、目的の家に着きました。赤い屋根がかわいい一軒家。ここから、私達の同居モニターが始まります。  この男性となら――と、私の心は期待でいっぱいでした。
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