同居モニター

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同居モニター

「本日は、我々の実験にご協力いただき、ありがとうございます」  白衣を着た若い男性が、壇上に立ち挨拶をする。はっきりとした、聞き取りやすい声で話す若い男性に聞き惚れていると、ざわざわとした周りの声が鬱陶しく感じていました。周りには、私を含め年齢もバラバラな男女数十人が座っています。緊張している者、ワクワクと期待に胸をときめかせている者、虚ろな目をした心此処に在らず――といった者。様々な人間が、挨拶を聞いていました。  どちらかと言えば、私も緊張していた。その証拠に、手には汗がにじみ、前もって渡されていたパンプレットがグチャグチャになっていました。少し恥ずかしく思い、ハンカチで汗を拭きましたが、パンプレットの文字はにじんでしまい、もはや隠しようがない状況になっていました。  長い挨拶がやっと終わり、途中からあまり話に集中出来なかった私ですが、いくばかりか緊張はほぐれていました。  挨拶が終わると、そのまま注意事項を説明されます。 「今回の実験は、より正確なデータを取る為、現実社会から隔離した状況が必要となります。したがって、外部と遮断をする為、今から皆様のスマホや携帯電話を預からせていただきます」 「えー!!」  数人から反感の声が聞こえましたが、パンプレットにも書いてあった事なので、私は事前に承知していました。係の人が、回りながら順番に回収して行きます。先ほど、声をあげていた人も、渋々渡していました。それと言うのも、今回の実験参加者に支払われる報酬金額が、異例な事に他ならないからです。当然、参加者の大半は、この報酬金額が目当てですので、従わざるおえません。約一ヶ月間、拘束されますが、それでも十分な報酬金額に、誰も文句は言いませんでした。  続いて、紙とペンが配られます。簡単な性格を把握する為のテストだと説明され、記入していきます。内容は、よくある答えを四択から選ぶ物で、特に難しい内容ではありませんでしたが、少し込み入った質問がいくつかありました。  例えば、これまでの経験人数だとか、週に何回自己処理するかなど、答えるのは恥ずかしいですが、それでもちゃんと答えなければならないと思い、素直に回答しました。  テストが終わると、次は個人面談が始まりました。会場から順番に呼ばれ、別室へと向かう参加者。待っている間、参加者同士での私語は禁止とされているので、黙って待つのは正直しんどいですが、それも我慢するしかありません。すでに、何人かの参加者は注意をされていたので、私は注意されたくなかったので、黙って順番を待ちます。 「次は、十四番の方。こちらへお願いします」  いよいよ私の順番が回ってきました。再び、緊張した私は、ハンカチを握り深呼吸をします。一回、二回と、心を落ち着かせてから、別室へと入りました。  部屋の中には、男女合わせて三人の面接官が待っていました。中央に置かれた椅子に座ると、面接が始まりました。 「緊張していますか?」 「は、はい。緊張しています」 「楽にしてください。面接と言っても、難しい質問はありませんのでリラックスしてください」 「はい」  若い男性が、緊張をほぐそうと話しかけます。好きな食べ物など、本当に簡単な質問と優しい感じの雰囲気に、緊張はすぐにほぐれました。 「――そうですか、では次の質問です。今回の実験に、応募した理由を教えてもらえませんか?」 「そうですね……」  正直に話すか迷いました。報酬金額が目的の参加者がほとんどな中で、私が参加した理由は他にあったからです。  私はこれまで、まともに恋愛をした事がありません。何人かの男性と付き合いをしたのですが、どれも長続きはせず、気がつけば二十代後半になっていました。両親からは「早く、孫の顔が見たい」など、遠回しに結婚を催促されますが、良い相手に恵まれませんでした。  そこで今回実験、同居モニターに参加する決意をしたのでした。知らない他人同士が、一緒に暮らすと恋が芽生えるのか。  そんな恋愛実験に、私は望みを託したのでした。 「正直に言います。私は、この実験で結婚相手を探す為に参加しました」 「そうですか……。それはちょっと問題がありますね」 「問題? 何ですか?」 「実は、同居する相手は、こちらで選定させてもらいます。相性や性格など、合う者だけではなく、合わない者ともペアになってもらいます。あなたが、必ずしも相性の良い方とペアになるとは限りません」 「そうですか。それは残念ですね」 「申し訳ありません。今回の実験で多くのデータを取る都合上、仕方のない事だとご納得いただけますか?」  実験である以上、それは致し方ない事です。それに、ここで帰っても何も変わらない。待っているのは、彼氏もいない寂しい現実だけ。  私は了承し、面接は終了しました。  全員の面接が終わると、バスに乗せられ、別の場所へと移動します。  出来れば、相性の良い男性とペアになる事を願うばかりです。
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